行政庁(いわゆる役所)は、国民がある行為(例えば飲食店の営業等)をしようとする場合に、許認可を出したり、あるいは不許可や、国民に不利益な処分等をしたりすることがあります。
これらは、国民の安全を守る等の目的で、行われるものですが(例えば、不衛生だったり、人体に害のある危険な料理を出したりする飲食店が、野放しではまずいですね)、いずれも法律等の根拠に従って、行われています。
主に、こうした処分や行政指導(行政庁が、特定の人に対して、具体的に一定の行為をするように(あるいはしないように)求める指導・勧告・助言等のこと)、届出に関する手続等について、一般的なルールを定めたのが、行政手続法です。
ただし、行政の範囲は広いので、すべての場合に適用されるわけではなく、例えば、刑事事件に関して、検察官や警察官等が行う処分、税金の犯則事件に関して、税務関係の職員が行う処分、公務員等に対して行う処分、学校等が学生や生徒に対して行う処分等、一定のものは除かれます。
以下、申請に対する処分、不利益な処分、行政指導等について、簡潔にご説明します。

<申請に対する審査・処分について>
行政庁は、国民の申請を認めるべきかどうかを判断するための基準(審査基準)を、できる限り具体的に定めて、かつ、これらを窓口に備え付ける等して、原則として、誰でも知ることができるようにしておかなければなりません。
また、申請から処分までに通常必要な、標準的な期間を定めるよう努め、これを定めたときは、同様に、窓口へ備え付ける等しておかなければなりません。
そして、申請をしようとする人や申請者等から、求めがあれば、申請書の記載や、添付書類に関する事項、その他の申請に必要な情報の提供に、努めなければなりません。
このようにして、申請をしようとする人の便宜が、図られています。

行政庁は、申請を受けた時は、遅滞なく、その審査を開始しなければならず、かつ、申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていること、申請をすることができる期間内にされたものであること、その他申請の形式上の要件に適合しない申請については、すみやかに、申請者に対して、相当の期間を定めて、その修正等を求め、またはその申請により求められた許認可等を、拒否しなければなりません。
要するに、行政庁は、申請を受けたら、迅速に、内容や不備の確認等をして、対応をするべきものと定められているわけです。
また、行政庁は、申請者の求めに応じて、その申請に関する審査の進行状況や、処分の時期の見通しを、示すように努めなければなりません。
これらも、申請者にとって便利な規定といえます。

そして、行政庁は、申請により求められた許認可等について、拒否の処分をする場合は、申請者に対して、同時に、処分の理由を示さなければなりません。
ただし、法令に定められた許認可等の要件や、公にされた審査基準が、数や量の指標、その他の客観的指標によって、あらかじめ明確に定められている場合であって、今回の申請がこれらに適合しないことが、申請書の記載や添付書類、その他の申請の内容から、明らかであるときは、申請者の求めがあった時に、これを示せば良いものとされています。
なお、拒否の処分を書面でする時は、その理由も、書面によって示さなければなりません。
このようにして、申請者は、拒否処分の理由を、把握することができます。

行政庁は、申請に対する処分で、申請者以外の人の利害を考慮する必要のあることが、法令上許認可等の要件とされているものを行う場合には、必要に応じて、公聴会の開催や、その他の適当な方法により、その申請者以外の人の意見を聴く機会を設けるよう、努めなければなりません。
また、行政庁は、申請の処理をするにあたり、他の行政庁において、同一の申請者からされた、関連する申請が審査中であることを理由として、自らすべき許認可等をするかどうかについての審査や判断を、ことさらに遅らせるようなことは、してはなりません。
これは、いわゆる横並びの判断を行おうとすることを、禁ずるものです。
他方、一つの申請や、同一の申請者からされた、お互いに関連する複数の申請に対する処分について、複数の行政庁が関与する場合には、その複数の行政庁は、必要に応じて、相互に連絡をとり、その申請者からの説明の聴取を共同して行う等により、審査の促進に努めるものとされています。
これは、迅速な審査のための規定と考えられます。

<不利益な処分について>
不利益処分とは、行政庁が、法令に基づいて、特定の人に対して、直接に、義務を課し、またはその権利を制限する処分をいいます。
ただし、
①事実上の行為や、それをするに当たり、その範囲、時期等を明らかにするために、法令上必要とされている手続としての処分
②申請により求められた許認可等を拒否する処分、その他申請に基づき、その申請をした人に対して、される処分
③処分の対象となるべき人の、同意の下に、することとされている処分
④許認可等の効力を失わせる処分で、その許認可等の基礎となった事実が消滅したという届出があったことを理由として、されるもの
については、除かれます。

不利益な処分については、行政庁は、その基準を、できる限り具体的に定めて、かつ、これを公開するよう、努めなければなりません。
また、行政庁は、以下の不利益な処分をしようとする場合には、原則として、聴聞の手続(処分を受ける人が、意見を述べたり、証拠となる書類等を提出したり、役所に対して質問等をする手続)を、とらなければなりません。
①許認可等を取り消す不利益処分をしようとする時
②対象者の資格や地位を、直接に剥奪する不利益処分をしようとする時
③対象者が法人である場合に、その役員の解任を命ずる不利益処分や、対象者の業務に従事する人の解任を命ずる不利益処分、対象者の会員である人の除名を命ずる不利益処分をしようとする時
④その他、行政庁が相当と認める時
これら以外の場合でも、対象者に、弁明(処分を受ける人が、言い分を記載した書面や、その証拠となる資料等を提出すること)の機会を、与えなければなりません。

なお、例外的に、以下のような場合は、聴聞等の手続を要しないこととなっています。
①公益上、緊急に不利益処分をする必要があるため、意見陳述のための手続を執ることができない時
②法令上必要とされる資格がなかったことや、失われるに至ったことが判明した場合に、必ずすることとされている不利益処分であって、その資格の不存在や喪失の事実が、裁判所の判決書や決定書、一定の職に就いたことを証する任命権者の書類、その他の客観的な資料により、直接証明されたものをしようとする時
③施設もしくは設備の設置、維持、管理や、物の製造、販売その他の取り扱いについて、遵守すべき事項が、法令において、技術的な基準をもって明確にされている場合で、もっぱらその基準が充たされていないことを理由として、その基準に従うべきことを命ずる不利益処分であって、その不充足の事実が、計測、実験、その他客観的な認定方法によって、確認されたものをしようとする時
④納付すべき金銭の額を確定し、一定の額の金銭の納付を命じ、または金銭の給付決定の取り消し、その他の金銭の給付を制限する、不利益処分をしようとする時
⑤その不利益処分の性質上、それによって課される義務の内容が著しく軽微なものであるため、名宛人となるべき人の意見をあらかじめ聴くことを要しないものとして、政令で定める処分をしようとする時

行政庁は、これらの手続の結果等を考慮して、最終的に不利益な処分をするかどうかを判断します。
不利益な処分をする場合には、原則として、その理由も同時に示さなければなりません。
例外的に、理由を示さないで処分をするべき、差し迫った必要がある場合は除かれますが、この場合でも、その対象者の所在が判明しなくなった時や、その他、処分後に理由を示すことが困難な事情のある時を除いて、処分後相当の期間内に、理由を示さなければなりません。
また、不利益処分を書面でする時は、上記の理由も、書面によって示さなければなりません。

<行政指導について>
行政指導とは、行政機関が、その任務や所掌事務の範囲内において、一定の行政目的を実現するため、特定の人に対し、一定の作為や不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為で、処分に該当しないものをいいます。
行政指導については、処分ではなく、単に行政庁が、相手方に任意に求める行為なので、特定の人や事業者等の権利義務に、直接具体的な影響を及ぼすことはありません。
仮に、相手方がこれに従わなかった場合でも、それを理由に、不利益な取り扱いをすることもできません。
申請の取り下げや、内容の変更を求める行政指導においては、行政指導の担当者は、申請者が、その行政指導に従う意思がないことを表明したにもかかわらず、その行政指導を継続すること等によって、その申請者の権利行使を妨げるようなことは、してはなりません。
また、許認可等をする権限や、許認可等に基づく処分をする権限を有する行政機関が、その権限を行使することができない場合や、行使する意思がない場合にする行政指導においては、行政指導の担当者は、その権限を行使できるということを殊更に示すことによって、相手方にその行政指導に従うことを余儀なくさせるようなことは、してはなりません。
これらは、行政機関が、権力をもとに、強引に行政指導に従わせようとすることを、戒める規定といえます。

行政指導の担当者は、その相手方に対して、その行政指導の趣旨、内容、責任者を、明確に示さなければなりません。
また、行政指導をする際に、行政機関が、許認可等をする権限や、許認可等に基づく処分をする権限を行使できるということを示すときは、その相手方に対して、次に掲げる事項を示さなければなりません。
①その権限を行使し得る根拠となる、法令の条項
②その条項に規定する要件
③その権限の行使が、上記の要件に適合する理由
行政指導が、口頭でされた場合において、その相手方から、上記の事項を記載した書面の交付を求められたときは、その行政指導の担当者は、行政上特別の支障がない限り、これを交付しなければなりません。
ただし、以下の行政指導の場合は、除かれます。
①相手方に対して、その場において完了する行為を求めるもの
②既に、文書や電磁的記録により、相手方に通知されている事項と同一の内容を求めるもの

行政機関は、同一の行政目的を実現するため、一定の条件に該当する複数の者に対して、行政指導をしようとする時は、あらかじめ、事案に応じて、行政指導指針を定めて、かつ、行政上特別の支障がない限り、これを公表しなければなりません。

法令に違反する行為の是正を求める行政指導(その根拠となる規定が、法律に置かれているものに限られます)の相手方は、その行政指導が、その法律に規定する要件に適合しないと考える時は、その行政指導をした行政機関に対して、そのことを申し出て、その行政指導の中止その他、必要な措置をとることを求めることができます。
ただし、その行政指導が、その相手方について、弁明その他、意見陳述のための手続を経て、されたものであるときは、除かれます。
上記の申し出は、一定の事項を記載した申出書を提出して、しなければなりません。
その行政機関は、上記の申し出があった時は、必要な調査を行い、その行政指導が、その法律に規定する要件に適合しないと認めるときは、その行政指導の中止、その他必要な措置をとらなければなりません。
これは、行政指導を受けた人のための、救済措置といえます。

何人も、法令に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分や、行政指導(その根拠となる規定が、法律に置かれているものに限られます)がされていないと考える時は、その処分をする権限を有する行政庁や、その行政指導をする権限のある行政機関に対して、そのことを申し出て、その処分や行政指導をすることを、求めることができます。
上記の申し出は、一定の事項を記載した申出書を提出して、しなければなりません。
その行政庁や行政機関は、上記の申し出があった時は、必要な調査を行い、その結果に基づいて、必要があると認める時は、その処分や行政指導をしなければなりません。
これは、必要な処分や行政指導がされていない場合に、被害者や第三者等が、それらをするよう促すことのできる規定といえます。

<届出について>
届出とは、行政庁に対し、一定の事項の通知をする行為(申請に該当するものは、除かれます)であって、法令により、直接にその通知が義務付けられているもの(自己の期待する、一定の法律上の効果を発生させるためには、その通知をするべきこととされているものを含みます)をいいます。
行政庁は、届出書の記入に不備がないこと、必要な書類がそろっていることなど、届出の形式的な条件がそろっている場合には、その届出がなかったものとして取り扱うことはできず、必ず受理をしなければなりません。

他にも、意見公募手続等についての規定もありますが、主なところでは以上が、行政手続法に規定された、行政の手続です。

行政手続の問題についても、お気軽にご相談ください。