危険運転致死傷罪は、刑法208条の2に規定されていましたが、現在は、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」3条に、規定されています。

旧刑法208条の2第1項は、「アルコールまたは薬物の影響により、正常な運転が困難な状態で、自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は、15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は、1年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、またはその進行を制御する技能を有しないで、自動車を走行させ、よって、人を死傷させた者も、同様とする。」(原文に一部加筆)、としていました。
このうち、「アルコールの影響で、正常な運転が困難な状態」とは、どのような場合を指すのかについて、最高裁判所平成23年10月31日決定は、「アルコールの影響により、道路交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な、心身の状態をいい、アルコールの影響により、前方を注視して、そこにある危険を的確に把握して、対処することができない状態も、これに当たる」としました。

この判例の事件は、飲酒酩酊状態の被告人が、直進道路において、高速で普通乗用自動車を運転中、直近に来るまで先行車両に気付かず、追突し、その衝撃により、先行車両を、橋の上から海中に転落・水没させ、死傷の結果を生じさせた、というものでした。
そして、本件では、追突の原因は、被告人が被害車両に気付くまでの約8秒間、終始前方を見ていなかったか、またはその間、前方を見ても、これを認識できない状態にあったかのいずれかであり、いずれであっても、アルコールの影響により、前方を注視して、そこにある危険を的確に把握して、対処することができない状態にあったと認められ、かつ、被告人に、そのことの認識があったことも認められるから、被告人は、アルコールの影響により、正常な運転が困難な状態で、自動車を走行させ、よって人を死傷させたものであるとし、危険運転致死傷罪の成立を肯定しました。

自宅までの距離が短いからか、慣れた道だからか、あるいは自分なら大丈夫と考えてしまうのか、相変わらず飲酒運転の事件は後を絶ちませんが、事故を起こした際には、失うものが莫大であることは言うまでもありません。
それと比べれば、タクシー代や、代行運転の費用等は、まだ安いものといえます。