最高裁判所平成23年12月16日判決は、建築基準法等の法令の規定に適合しない建物(以下「違法建物」)の建築を目的とする、請負契約に基づく本工事と、上記規定に適合しない部分の是正工事を含む追加変更工事の、残代金の支払を求める事件についての、判決です。

事案としては、当事者らは、賃貸マンション2棟の建築を目的とする、請負契約の締結にあたって、合法な手続では貸室数が少なくなり、賃貸業の採算がとれなくなること等から、違法な建物を建築することを合意し、建築確認申請用の図面(「確認図面」)のほかに、違法な建物の建築工事の施工用の図面(「実施図面」)も用意した上で、確認図面に基づき、建築確認申請をして、確認済証の交付を受け、いったんは、建築基準法等の法令の規定に適合した建物を建築して、検査済証の交付も受けた後に、実施図面に従って、違法な建物の建築工事を施工することを計画し、本件各建物の建築を目的とする、各請負契約を締結したものです。
当事者らは、上記合意の内容や計画を、すべて了承した上で、契約を締結していました。
本件各建物は、実施図面通りに建築がされれば、建築基準法等に定められた、耐火構造に関する規制、北側斜線制限、日影規制、建ぺい率制限、容積率制限、避難通路の幅員制限等にも違反するような建物でしたが、途中で、確認図面と異なる内容の工事が施工されていることが、区役所に発覚したため、その指示を受けて、是正計画書が作成され、違法建築部分を是正する工事を施工せざるを得なくなると共に、近隣住民からも、種々の苦情が述べられるなどしたため、対応を余儀なくされるなどし、上記の是正計画書に従った、是正工事を含む追加変更工事(以下「本件追加変更工事」といいます)が施工されたものの、代金の一部が支払われなかった、というものです。

この事件について、本判例は、当初の工事と、追加変更工事とに分けて考察しました。
まず、当初の工事については、おおむね、
「本件各契約は、違法建物となる本件各建物を建築する目的の下、建築基準法所定の確認及び検査を潜脱するため、確認図面のほかに実施図面を用意し、確認図面を用いて建築確認申請をして、確認済証の交付を受け、いったんは建築基準法等の法令の規定に適合した建物を建築して、検査済証の交付も受けた後に、実施図面に基づき、違法建物の建築工事を施工することを計画して、締結されたものであるところ、上記の計画は、確認済証や検査済証を詐取して、違法建物の建築を実現するという、大胆で、極めて悪質なものといわざるを得ない。
加えて、本件各建物は、当初の計画通り、実施図面に従って建築されれば、北側斜線制限、日影規制、容積率・建ぺい率制限に違反するといった違法のみならず、耐火構造に関する規制違反や、避難通路の幅員制限違反など、居住者や近隣住民の生命、身体等の安全に関わる違法を有する、危険な建物となるものであって、これらの違法の中には、ひとたび本件各建物が完成してしまえば、事後的にこれを是正することが相当困難なものも含まれていることがうかがわれることからすると、その違法の程度は、決して軽微なものとはいえない。
X(建築工事の請負業者)は、本件各契約の締結にあたって、積極的に違法建物の建築を提案したものではないが、建築工事請負等を業とする者でありながら、上記の大胆で極めて悪質な計画を、すべて了承し、本件各契約の締結に及んだのであり、Xが、違法建物の建築という、被上告人(注文者)からの依頼を、拒絶することが困難であったというような事情もうかがわれないから、本件各建物の建築にあたって、Xが、被上告人と比べて、明らかに従属的な立場にあったとは、言い難い。
以上の事情に照らすと、本件各建物の建築は、著しく反社会性の強い行為であるといわなければならず、これを目的とする本件各契約は、公序良俗に反し、無効である。」
としました。

他方で、追加変更工事については、
「本件追加変更工事は、本件本工事の施工が開始された後、区役所の是正指示や、近隣住民からの苦情等、様々な事情を受けて、別途合意の上、施工されたものとみられるのであり、その中には、本件本工事の施工によって既に生じていた違法建築部分を是正する工事も含まれていたというのであるから、基本的には、本件本工事の一環とみることはできない。
そうすると、本件追加変更工事は、その中に、本件本工事で計画されていた違法建築部分につき、その違法を是正することなく、これを一部変更する部分があるのであれば、その部分は別の評価を受けることになるが、そうでなければ、これを反社会性の強い行為という理由はないから、その施工の合意が、公序良俗に反するものということはできない、というべきである。」
としました。

本判例は要するに、
①建物建築の違法性・反社会性が著しい請負契約は、公序良俗違反として無効であること、
②その違法建築部分を是正するための、追加変更工事の施工の合意は、本工事の一環とはみられず、公序良俗違反とはいえず無効ではないこと、
等を明示しており、類似のような事例はそうそうないとは思われるものの、参考になります。