マンションやアパートを賃借する人は、契約の時に、敷金あるいは保証金を差し入れることが、一般的です。
これらは、賃借人が将来、家賃の滞納等をするといけないので、そのような場合に備えて、賃貸人があらかじめ預かっておくお金とされています。
この敷金に関する判決として、最高裁判所平成23年7月12日判決があります。
この事件では、マンションの一室の賃貸借契約が締結された際に、賃借人が100万円の保証金を差し入れました。
そして、契約が終了する時には、ここから60万円を当然に引かれ、残りの40万円も、滞納家賃等があれば引かれ、残りがあれば返す、という合意がされていました(敷引特約)。
賃借人は、この敷引契約が、消費者契約法に違反するとして、返還を求めました。
最高裁判所は、この事件で、おおむね以下のように、判示をしました。
「賃貸借契約では、賃料のほかに、賃借人が権利金、礼金等、様々な一時金を払う特約のされることが多く、賃貸人は通常、賃料のほか、色々な名目で授受される金額を総合的に考慮して、契約の条件を定める。
賃借人も、賃料のほかに払うべき一時金の額や、その全部ないし一部が、建物の明け渡し後も返還されないという契約条件が、契約書に明記されていれば、契約を締結する際に、自分が負担することになる金額を明確に認識した上、複数の物件の条件を比較・検討して、より有利な物件を選択できる。
そうすると、賃貸人が、契約条件の一つとして、敷引特約を定め、賃借人が、これを明確に認識して、契約を締結したのであれば、それは賃貸人、賃借人双方にとって、経済的に合理的な行為と評価すべきである。
だから、敷引特約は、敷引金の額が、賃料の額等からみて、高過ぎる等の事情がない限り、信義則に反して、賃借人の利益を一方的に害するものとはいえない。
本件では、契約書には、100万円のうち60万円は、建物の明け渡し後も返還されないことが、明確に読み取れる条項が置かれていたから、賃借人は、この契約によって、自分が負うこととなる金銭的な負担を、明確に認識した上で、契約を締結した。
そして、この契約での賃料は、当初は月額17万5000円、更新後は17万円で、敷引金の額は、その3.5倍程度にとどまり、高過ぎるとはいえない。
この敷引金の額が、近隣の同種類の建物について行われている敷引金の相場と比べて、大幅に高額ともうかがわれない。
以上の事情を総合考慮すると、この特約は、信義則に反して、賃借人の利益を一方的に害するものではなく、消費者契約法10条により、無効とはいえない。」
この判例に従うならば、物件を借りる場合には、賃料だけではなく、契約書の隅々までよく読んで、賃料の他には何をいくら負担しなければならないのかや、差し入れたお金は、将来どの程度返してもらえるのか等まで、よくチェックし、検討をした上で、契約をする必要があるといえます。