民事再生とは、借金等を払う義務(債務)があって、経済的に苦しい状況にある人について、裁判所に申し立てて、原則として払ってもらう権利のある人(債権者)の多数の同意を得て、かつ裁判所が認めた分割での支払計画(再生計画)を立てて、今後その通りに一定の額を払っていけば、残りの額は免除するということにしてもらい、債務者を経済的に立ち直らせる制度です。
債権者にとって損ではないかと思われるかもしれませんが、債権者にとっても、債務者に破産されてしまうよりは、多く払ってもらえることになります。
民事再生は、個人でも法人でも利用ができますが、多いのは個人の場合なので、ここでは主にこの個人版民事再生について説明します。
民事再生の手続をとれば、原則として住宅等の財産を残したまま(ただし、住宅やその敷地に、主に住宅ローン以外の権利を確保するための抵当権等がついている場合は、残せません)、大幅に減額された債務(ただし、住宅を残す場合は、住宅ローンは残額をすべて払っていく必要があります)を、原則として3年間で分割して払っていくことになります。
そして、これを払い終えれば、住宅ローン(住宅を残す場合)、税金、罰金、養育費等以外の債務は、払う責任がなくなります(免責)。
民事再生のメリットは、破産の場合と異なり、主に住宅を手放さなくてもよいこと、保険の外交員や警備員等、一定の職業につけなくなるという資格の制限がないこと、ギャンブルや浪費で債務を負った場合でも利用できることなどです。
したがって、これらのメリットを受けたい場合は、民事再生が選択肢の一つとなります。
デメリットは、保証人がいればその人に残金全額の請求がいってしまうこと、官報に載ること(ただし、通常の人はまず読んでいませんが)、一定の金額を払い続けていかなければならないこと(破産の場合は、税金等を除いて、原則として払っていく必要がなくなります)、信用情報機関のいわゆるブラックリストに登録され、平均7年程度は新たにローンを組んだり、クレジットカードを利用したりできなくなることなどです。
民事再生を利用できる条件は、
①支払ができなくなるおそれがあり、
②借金の総額が5,000万円以下であり(住宅ローン等を除く)、
③本人に継続して収入を得る見込みがあること
です。
個人の民事再生の手続には、以下の通り、小規模個人再生と給与所得者等再生の2種類があり、主な違いは、再生計画が認可される基準の違いです。
小規模個人再生
小規模個人再生手続は、将来継続して収入を得る見込みがあり、かつ住宅ローン等以外の借金の総額が5,000万円以下である個人が、利用できます。
再生計画案が可決されるためには、原則として決議をする権利のある債権者(議決権者)の総数の2分の1以上の反対がなく(何も言わない債権者は、反対ではないことになります)、かつ反対した議決権者の議決権額(原則として債権の額に応じて決まります)の合計が、議決権総額の2分の1を超えていないことが必要です。
可決されれば、原則として3年間で、一定の額を払っていくことになります。
この額は、具体的には清算価値(もし破産をしたとしたら、財産の処分等をして債権者に払われるであろう額)に相当する額か、法定の最低弁済額の、どちらか大きい方になります。
法定の最低弁済額は、
①負債額が100万円未満の場合は全額、
②負債額が100万円以上500万円以下の場合は100万円以上、
③負債額が500万円を超え1,500万円以下の場合は総額の5分の1以上、
④負債額が1,500万円を超え3,000万円以下の場合は300万円以上、
⑤3,000万円を超え5,000万円以下の場合は総額の10分の1以上、
となります。
給与所得者等再生
給与所得者等再生手続は、小規模個人再生を利用できる人のうち、給与またはこれに類似する定期的な収入を得る見込みがあり、かつ、その変動の幅が小さいと見込まれる人が、利用できます。
ただ、この手続では、上記の①清算価値相当額と②最低弁済額のほか、③その人の可処分所得(収入から税金等を控除し、さらに政令で定められた生活費を控除した金額)の2年分、のうちの最も多い額を最低限払っていかなければなりません。
そのため、一般的には、小規模個人再生の場合よりも、支払額が高額になります。
その代わり、小規模個人再生のような可決要件はないので、再生計画案に反対をしそうな債権者が多い場合には、こちらの手続を検討することになります。
また、過去7年以内に、給与所得者等再生手続をとって再生計画が実行されていたり、破産をして免責許可の決定を受けたりしている場合には、給与所得者等再生の手続をとることはできません(この場合でも、小規模個人再生の手続をとることはできます)。
このように、小規模個人再生も給与所得者等再生も、いずれも一定の期間、継続的に支払をしていく手続なので、少なくとも継続して収入を得る見込みのあることが必要です。
手続の大まかな流れは、
①各債権者に対して、弁護士がついたことなどを通知(受任通知)
②以後の取り立てや支払が止まる(住宅を残す場合は、住宅ローンは払う)
③各債権者が、債権確認書や取引履歴を提出
④債務額を計算
⑤裁判所に民事再生の申し立て
⑥再生手続開始決定、必要があれば再生委員(財産の調査等をする人で、通常は弁護士)の選任(この場合、別途再生委員の費用が、少なくとも10数万円以上は必要になります)
⑦債権者が、裁判所に債権を届出
⑧それらの債権を認めるかどうかを決定
⑨債務者が、再生計画案を提出
⑩債権者による決議(給与所得者等再生では、債権者の意見の聴取)
⑪認可決定
⑫認可決定の確定後、再生計画に従って支払
⑬支払が完了すれば、残りの債権について免責、
となります。
なお、再生計画が認可されなかったり、認可されてもその後の支払が途中で止まったりすると、やむを得ず期限の延長や免責が認められるなどの一定の場合を除いて、破産手続等をしなければならなくなるので、注意が必要です。
通常の民事再生
これに対して、通常の民事再生の場合は、負っている債務の総額に上限はなく、関係者も多くてある程度の規模の事件であることが想定されており、個人も利用はできますが、一般的には法人が念頭に置かれています(更に大規模な場合には、会社更生が用意されています)。
そのため、手続も個人再生の場合より複雑であり、原則として弁護士費用とは別に、高額の予納金が必要となります。
これは、手続を監督するために、裁判所が主に弁護士の中から選任する監督委員の費用や手続費用等に充てられるもので、負債の額や債権者の数などにもよりますが、通常は少なくとも個人の場合は20万円以上、法人の場合は200万円以上となります。
また、一般に債権者集会も開かれますし、再生計画案の可決要件も、個人再生の場合と違って、債権者の積極的な同意が必要となります。
したがって、債務者としては、再生計画案について積極的に賛成をもらう必要があるため、債権者に対して事前に説明をし、理解をしてもらうことが必要になってきます。
ただし、裏を返せば、このような同意が要求されている以上、上記の清算価値以上の金額を払っていくことさえ保障されていれば、最低いくら以上は払わなければならないとか、可処分所得の2年分以上でなければならないなどという制限も特にありません。
この手続を利用する場合、経営者は、会社更生や破産等の場合と異なり、解任されない限りは、会社の経営権を引き続き維持して、経営を続けながら会社の再建を行っていけます。
ただし、監督委員によって監督をされるので、重要な事項については、その同意がなければ原則として無効となるほか、業務や財産の状況について、監督委員から報告を求められたり、帳簿等の検査を受けたりします。
いずれにしても、民事再生の手続をとるには、早めの決断が大切であることは、いうまでもありません。
民事再生の問題についても、お気軽にご相談ください。