ここでは、夫婦・親子の間の、生活のための費用である、婚姻費用と養育費について、それぞれ簡潔にご説明します。

婚姻費用

婚姻費用とは、文字通り、婚姻中の、夫または妻が生活をしていくための費用であり、夫または妻の生活費+監護している子を養育する費用のことです。

民法には、以下のような規定があります。

・直系血族や同居の親族は、お互いに助け合わなければならない。

・夫婦は同居し、お互いに協力し、扶助しなければならない。

・夫婦は、その資産、収入、その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。

これらの規定からみて、夫婦は、互いに婚姻中に必要な費用を分担もしくは支出して、相手が生活に困らないよう、手当をする義務があるといえ、婚姻費用の支払は、法律上の義務といえます。

婚姻費用は通常、離婚等、婚姻関係が解消する時まで、もらう権利があります。

しかし、順調に夫婦の一方から他方に対し、支払がされていれば良いのですが、常にそう順調とは限らず、支払が止まってしまう時があります。

協議

この場合、まず行うべきは、夫婦間での協議です。

要するに話し合いであり、それでうまくいくならば、毎月支払う金額や支払方法等は、当事者間ですべて自由に決めることが可能です。

ただし、婚姻費用の額を、協議で合意したにすぎない場合は、公正証書の作成等をしていない限り、強制執行はできませんので、不安があれば、費用はかかりますが、公正証書等を作成することが大切です。

なお、婚姻費用は、裁判所の手続では、通常は請求した月からの分しか認められないことが多い(あとは、離婚の際の財産分与で考慮してもらうしかなくなる)ため、相手から払われなくなったら、早期に内容証明郵便等で請求や、調停の申立てをする必要があります。

調停

当事者同士での協議は、必ずしもうまくまとまるとは限りませんし、そもそも色々な問題があって、話し合いすらできないという場合も、珍しくはありません。

その場合には、家庭裁判所に、婚姻費用の分担を請求する調停(裁判所での話し合いの手続)を、申し立てます。

申し立てのための用紙は、家庭裁判所の窓口に備え付けてありますし、裁判所のホームページにも載っています。

また、申し立ての際には、戸籍等が必要になりますが、必要な書類や費用等についても、家庭裁判所の窓口で、教えてもらえます。

それらを記入・押印し、書類を揃えて、必要な印紙や切手と共に提出すると、不備がなければ、申し立てが受理されます。

それから、第1回の調停の期日が決まり、裁判所から相手方へ通知されます。

相手もこの手続に応じるならば、話し合いが始まります。

調停の期日では、2人の調停委員が間に入って、当事者双方の言い分を聴き、両者の調整を図って、極力話がうまくまとまるよう、進めてくれます。

調停委員は中立で、どちらの味方というわけでもありません。

調停委員は、当事者の話を交互に聴きますが、一方の話を聴いている間、相手方は別の待合室にいますので、原則として、当事者がお互いに顔を合わせて、直接話し合うことはなく、当事者は、調停委員に対して、相手への意見や要望等を言うことになります。

調停の際には、当事者双方が、給料明細や源泉徴収票、その他、毎月の収入に関する資料や、双方の支出する家賃・住宅ローンの額、その他毎月の生活費の支出についての明細、資料等を、提出していきます。

その上で、毎月いくらずつ婚姻費用を支払うべきか、合意に向けて、話し合いが進んでいきます。

1回の期日で決まらず、しかしまだ話し合いの継続の余地がある場合には、その後1~2か月に1回程度、期日が続行されます。

調停で決まる婚姻費用の額は、もちろん、当事者が合意するならば、どのような金額であっても自由ではありますが、通常はおおむね、双方の年収と、子の人数・年齢を元にした、裁判所作成のいわゆる「婚姻費用算定表」による金額が基本となってきます(審判や訴訟でも、おおむね同様です)。

それをベースに、特殊な事情があれば、それらも考慮して調整される、という流れです。

調停のメリットは、離婚等に詳しい調停委員が間に入って、話し合いを進められることですが、逆に、話し合いでの解決ができるだけで、判決のように、強制的に決めることはできませんので、相手がどうしてもその内容で合意をするのは嫌だと言えば、調停は不成立として、終了します。

審判

調停で合意ができず、終了した場合は、自動的に、家事審判という手続に移行します。

この場合は、双方の提出した主張・資料等に基づき、裁判官が、審判を行います。

このようにして、最終的には、婚姻費用の請求について、明快にイエスかノーの結論を(請求が認められるならば、その金額がいくらなのかも)、出してもらえます。

その後、婚姻費用が、調停での合意、もしくは審判の内容の通りに支払われない場合は、権利者は、裁判所に対し、義務者に履行を勧告したり命令したりするよう、申し出ることができます(履行勧告・履行命令の手続)。

また、権利者は、裁判所に対して、申し立てを行い、相手の不動産や預貯金、給料等を差し押さえる、強制執行の手続をとることも可能です。

養育費

養育費は、離婚後の、文字通り、子の養育費用です。

相手からもらえるこの費用について、婚姻中は婚姻費用、離婚後は養育費という名称になりますが、両者は、名称だけではなく、内容も、少し違います。

すなわち、婚姻中には、上記の通り、夫婦には相手の夫または妻(配偶者)の生活も助ける義務があるため、婚姻費用には、子どものための生活費だけでなく、配偶者の生活費も、含まれています。

他方、離婚後には、夫または妻は元配偶者となり、何の親族関係もなくなりますので、法的には、子どもを養育する義務しか残らず、元配偶者を扶養する義務は、なくなります。

したがって、同じ年収・子の人数・年齢であっても、婚姻費用よりも養育費の方が、支払の月額は小さくなります。

また、婚姻費用は、婚姻が継続する限りは、通常は死ぬまで扶養義務は続くので、少なくとも配偶者の生活費に関しては、必要がある限りはずっと支払義務がありますが、養育費の支払期間は、子が成人または大学卒業に達するまで、とされることが多いです。

こちらも、手続の流れとしては、上記の婚姻費用の場合とほぼ同様です。

すなわち、毎月の支払金額が、協議で決まれば、それに越した事はありませんが、そうでなければ、家庭裁判所での調停、審判へと進みます。

調停においては、養育費の全額前払いも認められ、この場合、一括払を受けたのに更に請求することは、事情の変更等がない限りは、認められません。

また、養育費を請求しない合意も、夫婦間では有効とはいえるものの、同様に事情の変更があった場合は別であるほか、子どもは拘束されないので、将来子どもから相手の親に対し、養育費を請求することは可能です。

養育費の金額についても、調停や審判では、裁判所作成のいわゆる「養育費算定表」の金額が基本となることが通常です。

裁判所で決着した場合には、その後に履行がされなければ、履行勧告や強制執行の手続が可能であることも、婚姻費用の場合と同様です。

婚姻費用・養育費の問題についても、お気軽にご相談ください。